鳥取県の現在の大山町の渡邊信平氏が、明治24年より稲種21種を他府県より購入試作し、選抜培養を重ね、選ばれた優良品種に「強力」の名前を付けて栽培したことが始まりとされている。名前の由来は、後醍醐天皇が屈強の地元住民に名前「高力」を付けたそこからの由来、倉吉にある地名"強力"からだとか、諸説あるが不明。後に鳥取県立農事試験場で純系選抜を行い強力1号から強力10号を仕立て、そのうち1号と2号が奨励品種として採用された。強力1号が食用として、強力2号が心白の発現の良さから酒米として有名になり、当時は県外移出量も多かったそうである。
明治・大正・昭和と栽培され、大正10年には鳥取県の奨励品種として採用され鳥取県の水田の三分の一を占めるなど多く栽培されていた。その後しだいに背の低いなど栽培しやすい改良品種が多く出回るようになり、背が高くて倒伏しやすく、気象リスクがある強力の栽培量は減っていった。昭和20年にはとうとう鳥取県の奨励品種から外され、昭和30年頃県内からその姿を消したと言われている。
大正2年頃の鳥取県下に栽培されていた強力の分布 渡邊信平氏
昭和63年に鳥取県酒造技術顧問であった上原浩氏の指導を受け、鳥取大学農学部でわずかに育種保存されていた種籾の提供受け、平成元年より栽培を始めた。これが強力の復活栽培である。水稲の品種は年に1%から3%位は自然交雑するとされているが、県の奨励品種でなかった強力は、種子の更新が出来ず純度の低い品種が出回る恐れが生じた。そこで純正度の高い種子生産並びに米を生産することを目的として、農家・蔵元・鳥取大学農学部・鳥取県農業試験場が協力して平成10年「強力を育む会」を結成した。種子の管理をするため、会員にのみに原種子を配布し、自家採取を禁止して毎年の種子の更新を原則としている。現在「強力を育む会」に参加している会員蔵は鳥取県内の9社である。
上原浩氏(1924年~2006年) 「強力をはぐくむ会」会則
千代むすび酒造は「強力を育む会」には設立準備から参加し、平成10年に精米50%の純米吟醸酒の製造を1,223kg足らずのわずかな玄米から始めた。その後山田錦を栽培していた農家様を中心に強力の作付けをお願いして回り、より多くの強力を確保出来る体制となった。それに伴い強力を使った商品は県内だけでなく、県外、そして海外でも販売されるようになり、平成26年には純米酒から純米大吟醸酒までのラインナップを揃えることが出来るようになった。現在千代むすびが使用する強力は鳥取県各地の農家様との契約栽培のもののみである。
千代むすび酒造が使用する「強力」の栽培地
強力米の生産者 武本さん(南部町) 強力米の稲穂
稈がは長く倒伏しやすい。線状心白を持ち、同様の心白を持つ米はほかに山田錦と雄町があるとされる。心白はほぼでんぷん質であり、粗な構成している。そのため中心まで給水し、麹造りに最適な外硬内軟の蒸米が可能となる。米は物理的に硬く、精米に比較的時間がかかる。酒質はコクのある味わいが出るのが特徴である。
◆長さ重さの比較 強力 山田錦 こしひかり
稈長(かんちょう)※1 116cm 105cm 91cm
穂長(ほちょう)※2 21.9cm 19.8cm 19.8cm
穂数(㎡あたり) 383本 500本 436本
千粒重 ※3 26.6g 28.6g 23.3g
※1稈長:地面から穂までの長さ ※2穂長:穂の長さ ※3千粒重:米千粒当りの重さ
◆精米時間(精米歩合70%の場合)
強力 6時間10分
山田錦 5時間53分
五百万石 5時間41分
玉栄 4時間42分